「夏になると川に行きたくなりますなぁ」
うるさく鳴り響く蝉の合唱を背に、間延びした声でお前はそう言った。
「いいよなぁ、川。足だけ入れて涼んだり、スイカを冷やしちゃったりなんかしちゃってさ」
右の口角だけを不器用にあげて、ニヤリと下手くそに笑う。幼いころに僕ら二人で見た刑事ドラマの影響を受けたその笑い方は、昔からちっとも上手くなっていない。
「ねぇ、川、行こうぜ」
痛いぐらいさしてくる日差しが、僕とお前の境界線を作る。その線を、越えてはいけない。それは本能からのメッセージ。
「…川になんか行きたくない」
そうぶっきらぼうに言葉を返した。そうしたら、お前はぐにゃりと顔を歪めたけど、それがどんな表情なのかはわからない。本当に、嫌気がさした。
眩しい、眩しい。暑い、暑い、あつい。気がおかしくなりそうな中で僕らは、僕は立っている。目の前に立っているお前は、そこにいない。全部幻だ。暑さとそこらかしこから香ってくる線香の匂いのせいで、僕はおかしくなったのだ。
川になんか行きたくない。去年、お前は川で死んだのだ。季節外れの風邪をひいた僕のために冷やした西瓜を取りに行くその途中に、足滑らせてお前は死んだ。それからずっと、僕はお前に呪われている。僕のせいで死んだのだと、セミの声すらかき消してしまうほど、お前の声が耳の中で鳴り響いている。…いや、もしかしたら、僕自身が僕を呪っているのかもしれない。自分を呪って、勝手に苦しんで、どこにもいやしないお前からの赦しを、僕はずっと待っているのかもしれない。いつの間にか自身の表情を取り戻したお前がじっと僕を見つめている。許してと一言言えば、この幻覚は僕を許して消えてくれるだろうか。それとも、と考えたところでこの問答はなんの意味もないことを思い出して、帰路を辿る。お前は何も言わずに、僕の後ろを着いてくる。嗚呼、これだから夏はいやなのだ。
うるさく鳴り響く蝉の合唱を背に、間延びした声でお前はそう言った。
「いいよなぁ、川。足だけ入れて涼んだり、スイカを冷やしちゃったりなんかしちゃってさ」
右の口角だけを不器用にあげて、ニヤリと下手くそに笑う。幼いころに僕ら二人で見た刑事ドラマの影響を受けたその笑い方は、昔からちっとも上手くなっていない。
「ねぇ、川、行こうぜ」
痛いぐらいさしてくる日差しが、僕とお前の境界線を作る。その線を、越えてはいけない。それは本能からのメッセージ。
「…川になんか行きたくない」
そうぶっきらぼうに言葉を返した。そうしたら、お前はぐにゃりと顔を歪めたけど、それがどんな表情なのかはわからない。本当に、嫌気がさした。
眩しい、眩しい。暑い、暑い、あつい。気がおかしくなりそうな中で僕らは、僕は立っている。目の前に立っているお前は、そこにいない。全部幻だ。暑さとそこらかしこから香ってくる線香の匂いのせいで、僕はおかしくなったのだ。
川になんか行きたくない。去年、お前は川で死んだのだ。季節外れの風邪をひいた僕のために冷やした西瓜を取りに行くその途中に、足滑らせてお前は死んだ。それからずっと、僕はお前に呪われている。僕のせいで死んだのだと、セミの声すらかき消してしまうほど、お前の声が耳の中で鳴り響いている。…いや、もしかしたら、僕自身が僕を呪っているのかもしれない。自分を呪って、勝手に苦しんで、どこにもいやしないお前からの赦しを、僕はずっと待っているのかもしれない。いつの間にか自身の表情を取り戻したお前がじっと僕を見つめている。許してと一言言えば、この幻覚は僕を許して消えてくれるだろうか。それとも、と考えたところでこの問答はなんの意味もないことを思い出して、帰路を辿る。お前は何も言わずに、僕の後ろを着いてくる。嗚呼、これだから夏はいやなのだ。