zorozoro - 文芸寄港

タイトル未定

2024/04/19 11:23:10
最終更新
サイズ
2.08KB
ページ数
1
閲覧数
209
評価数
3/3
POINT
220
Rate
12.25
 蹴った。
 母は、その言葉ばっかりを繰り返していた。
 そんな記憶を反芻していたら、いつの間にか真っ白なキャンバスに、大きな靴の裏が描き出されていた。土汚れを表現したくて、茶色の絵の具を取り出した。黒色の上に茶色を塗りたくっていると、なんだか母と同じようなことをしているような気持ちになった。
 惨めだ。

 蹴られた。
 彼は、金のトロフィーを掲げた。僕の横で。銀のトロフィーを抱き抱える自分は、なんとも言えない顔をしていた。当然だ。一緒に取ろうと約束していたものを、彼一人に横取りにされたからだ。それらは全て事故の様なもので、誰がどう悪いとかはない。ただ一つ、悪いことがあるとするならば、それは僕がとんでもなく不幸だったのだ。きっと、それ以上もそれ以下もない。
 彼の振り回す何か、によって僕は回し蹴りを、されてしまったのだと気付かされた。
 
 僕は急いで彼の個室へと向かった。自分の部屋に届けられた自分の作品なんて見向きもせず、一目散に彼を目指した。息を切らして、たどり着いた先は無言の白だた。黙って僕のことを見ていた。
「どうやって、あんな作品を描けたんだ」
 真剣な声色になっていることに、自分でも気がつくことができた。
 彼はその間も、黙って僕の話を聞いていた。
「そもそも、なんであの内容で描いたんだ? 僕は腰を描いて、君は足を描くと言ったじゃないか。でも、でも君は女性の全てを描いた。正直にいうよ、君のあんな素晴らしい作品なんて初めて見た。あそこまで描けるなんて、正直思わなかった。それくらい今、僕は感心しているんだ」
 一息に話し終えても、彼の動くことも動じることもなかった。その様はいっそ清々しかった。ただただ、彼は自分で描きあげた女と見つめあっていた。その間に情欲が孕んでいたことは、一目瞭然であった。彼は絵の前で跪く。
「僕は彼女に愛されているんだ」
 彼は真剣な眼差しで、絵の中の彼女を見る。
「正確には彼女ではない。彼女の中に眠る芸術の神、才能にだね。そうだ、才能に愛されているし、愛されてしまった。だから僕はこの世に生まれたし、絵以外の道は選べないし選ぶ気もない。それは生まれた時に羊水を通して予言されたんだと、今ではそう思うよ」
 才能に愛されてしまった、と話す彼はいまだ僕のことを見ない。ただ額縁を見つめ、女のイヤリングを見つめ、瞳の奥に眠る芸術を見つめている。確かに才能の女は、彼を愛していた。
 僕は、それをこの世で最も美しい行為と思うことにした。
 それ以降、彼に会うことはなかった。
深夜に小説は書かない方がいい(何が何だかわからん文章になってしまうため)
匿名
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.簡易評価なし
1.70削除
作家が作品に飲み込まれる話好き。
2.70べに削除
せっかくいい話だからタイトル考えて欲しいなー
3.80v狐々削除
良かったです。