貴重な休日。まだ慣れない社会人としての日曜日。それも昼起床を噛み締めながらコントローラーを手に伸ばすと、それを阻止するようにスマートフォンが鳴った。げ。会社じゃありませんように。僕はキリキリと悲鳴を上げ始めた胃をさすりながら画面を見ると、何やらそれは固定電話からの着信のようだった。心当たりのない番号。しかも固定電話。母や父の電話番号は知っているし、どうせ詐欺か勧誘だろう。僕は一つため息をつくともう一度コントローラーに手を伸ばそうとした。
しかしこれが虫の知らせというものだろうか。僕の頭に最近会っていなかったばあちゃんの顔がよぎった。嫌な予感じゃない。自分にそう言い聞かせながら僕はもう一度携帯に手を伸ばした。
「もしもし? としえです。ヒロか? 元気かい?」
ばあちゃん、こんなシャキシャキした声だったっけ。僕は思わず顔をしかめてしまった。認知症になってからのばあちゃんの声はもっと動物的で、たまに耳を塞ぎたくなるようなものだった。しかし今聞こえている声はいやに人間的な声である。
本当にばあちゃんなのか?
しかしそんなことを聞けるはずもなく、僕はただ大好きだったばあちゃんが元気になったのだと信じることしかできなかった。
「久しぶり。元気だよ。ばあちゃんは? 最近顔見れてないから心配してたよ」
ずっと心配してた。そんなばあちゃんがボケたのは三年ぐらい前だった。
じいちゃんがもう長くないと悟った時には兆候が見えていて、逝ってしまってからは本当にあっという間だった。
その当時僕は大学三年生だったがばあちゃんにとって僕の姿は小学生に見えていた。成人した孫におもちゃを買い与えようとしている老婆を、僕は置き去りにすることしかできなかった。
もう一生このまま小学生を演じていた方がばあちゃんにとって幸せなのではないか。そう思い始めていた矢先、ばあちゃんが直接僕に電話をかけてきたのだった。今のばあちゃんにそんなことできるはずがなかった。
それは火が消える前に一瞬大きくなる様のようで、僕にはじいちゃんの時と重なって見えてしまった。
ばあちゃん、もう長くないんだ。
そんなことを考えているうちにばあちゃんの中で話は進んでいたらしい。忘れていたけれど元々強引な人だったなと、また一つ懐かしいことを思い出した。
「そういえば会社はどう? あんまり無理はするんじゃないよ。ばあちゃん、まだ卒業祝いと入社祝いを渡してなかったね。悪いことしたねえ。次来る時までに用意しておくから、来ることになったら連絡してねえ」
それじゃあ健康に気をつけてね。
多分、ばあちゃんの手から直接祝いの品が渡される事は無いのだろうと思った。彼女は強引な人だったから、僕にありがとうも言わせてくれやしなかった。
僕はそのまま休暇申請のメールを送り、コントローラーをどかして身支度を整えているとなんだか背中に温もりを感じた。昔からずっと変わらない温もりだった。
しかしこれが虫の知らせというものだろうか。僕の頭に最近会っていなかったばあちゃんの顔がよぎった。嫌な予感じゃない。自分にそう言い聞かせながら僕はもう一度携帯に手を伸ばした。
「もしもし? としえです。ヒロか? 元気かい?」
ばあちゃん、こんなシャキシャキした声だったっけ。僕は思わず顔をしかめてしまった。認知症になってからのばあちゃんの声はもっと動物的で、たまに耳を塞ぎたくなるようなものだった。しかし今聞こえている声はいやに人間的な声である。
本当にばあちゃんなのか?
しかしそんなことを聞けるはずもなく、僕はただ大好きだったばあちゃんが元気になったのだと信じることしかできなかった。
「久しぶり。元気だよ。ばあちゃんは? 最近顔見れてないから心配してたよ」
ずっと心配してた。そんなばあちゃんがボケたのは三年ぐらい前だった。
じいちゃんがもう長くないと悟った時には兆候が見えていて、逝ってしまってからは本当にあっという間だった。
その当時僕は大学三年生だったがばあちゃんにとって僕の姿は小学生に見えていた。成人した孫におもちゃを買い与えようとしている老婆を、僕は置き去りにすることしかできなかった。
もう一生このまま小学生を演じていた方がばあちゃんにとって幸せなのではないか。そう思い始めていた矢先、ばあちゃんが直接僕に電話をかけてきたのだった。今のばあちゃんにそんなことできるはずがなかった。
それは火が消える前に一瞬大きくなる様のようで、僕にはじいちゃんの時と重なって見えてしまった。
ばあちゃん、もう長くないんだ。
そんなことを考えているうちにばあちゃんの中で話は進んでいたらしい。忘れていたけれど元々強引な人だったなと、また一つ懐かしいことを思い出した。
「そういえば会社はどう? あんまり無理はするんじゃないよ。ばあちゃん、まだ卒業祝いと入社祝いを渡してなかったね。悪いことしたねえ。次来る時までに用意しておくから、来ることになったら連絡してねえ」
それじゃあ健康に気をつけてね。
多分、ばあちゃんの手から直接祝いの品が渡される事は無いのだろうと思った。彼女は強引な人だったから、僕にありがとうも言わせてくれやしなかった。
僕はそのまま休暇申請のメールを送り、コントローラーをどかして身支度を整えているとなんだか背中に温もりを感じた。昔からずっと変わらない温もりだった。