「そろそろかな」
先輩のワンルームはいつも秒針のカチ、カチと時間を刻む音が響いていた。声に反応して先輩を見ると薄いカーテン越しに高い所から移動し始めた太陽を見つめている。振り返ろうとしているのが見えてそっと目線をスマホに移した。
「ちょっと出かけようか」
こんな時間からどこに向かうのか全く見当もつかない。もう一度先輩を見れば床に転がっていたカーディガンを拾い上げている。
車の中もまた酷く静かだった。カーディガンから覗く細い腕と爪先に適当に塗られた紫色のネイル。
「どこに向かってるんですか」
先輩に私の声は聞こえてないようで反応はない。聞いたら不味かったかな、そんなことを思いながら車に登録されたスマホから音楽を流した。
いつの間にか寝てしまっていたようで、隣に先輩は座っていなかった。焦って外に出てみれば潮の匂いがする。
「起きた?ぐっすり眠ってたから起こすのはどうかと思ったんだけどそろそろ日没だからさ、」
私の左手を掴み、枯れた草木の間を抜ければ目の前には夕日が沈みかけた海。パシャっとカメラのシャッター音がそこかしこから聞こえる。見渡せばカメラを構えている人、人。私の手からするりと抜けた先輩は伸びをしてからまた歩き始めた。砂浜に足を踏み込めば人肌程度の熱が足を包み込む。ずっとこんな時間が続けばいいのに、毛先が揺れる程度の風を感じながら歩みを止めない後ろ姿を追いかけた。
どれくらい歩いたのか、後ろを見ればさっきまで楽しそうに遊んでいた男女は階段を一段一段重い足で上がっている。
人為的に設置されたベンチに腰掛ける先輩。にこっと笑い隣に座るよう促されそのまま座った。
夕日が海に沈み残された橙の光が青と融合した空、それを反射する海。
「ここね、彼氏と来たことがあるの」
サンダルを脱ぎ、膝を抱きながらやさしくこちらを見つめる先輩。随分と痩せてしまった頬に紫に広がる唇、毒々しい先輩と目が合う。ドクドクと心臓が早くなっていることがわかる。
「先輩は、どうしてここに連れてきてくれたんですか。」
「水瀬が当時の私に似てたから」
それだけをいうと先輩は海を見つめた。私もまた海を見る。海からの差し出された風がいつの間にか流れていた涙にあたり、泣いていることを自覚した。
先輩のワンルームはいつも秒針のカチ、カチと時間を刻む音が響いていた。声に反応して先輩を見ると薄いカーテン越しに高い所から移動し始めた太陽を見つめている。振り返ろうとしているのが見えてそっと目線をスマホに移した。
「ちょっと出かけようか」
こんな時間からどこに向かうのか全く見当もつかない。もう一度先輩を見れば床に転がっていたカーディガンを拾い上げている。
車の中もまた酷く静かだった。カーディガンから覗く細い腕と爪先に適当に塗られた紫色のネイル。
「どこに向かってるんですか」
先輩に私の声は聞こえてないようで反応はない。聞いたら不味かったかな、そんなことを思いながら車に登録されたスマホから音楽を流した。
いつの間にか寝てしまっていたようで、隣に先輩は座っていなかった。焦って外に出てみれば潮の匂いがする。
「起きた?ぐっすり眠ってたから起こすのはどうかと思ったんだけどそろそろ日没だからさ、」
私の左手を掴み、枯れた草木の間を抜ければ目の前には夕日が沈みかけた海。パシャっとカメラのシャッター音がそこかしこから聞こえる。見渡せばカメラを構えている人、人。私の手からするりと抜けた先輩は伸びをしてからまた歩き始めた。砂浜に足を踏み込めば人肌程度の熱が足を包み込む。ずっとこんな時間が続けばいいのに、毛先が揺れる程度の風を感じながら歩みを止めない後ろ姿を追いかけた。
どれくらい歩いたのか、後ろを見ればさっきまで楽しそうに遊んでいた男女は階段を一段一段重い足で上がっている。
人為的に設置されたベンチに腰掛ける先輩。にこっと笑い隣に座るよう促されそのまま座った。
夕日が海に沈み残された橙の光が青と融合した空、それを反射する海。
「ここね、彼氏と来たことがあるの」
サンダルを脱ぎ、膝を抱きながらやさしくこちらを見つめる先輩。随分と痩せてしまった頬に紫に広がる唇、毒々しい先輩と目が合う。ドクドクと心臓が早くなっていることがわかる。
「先輩は、どうしてここに連れてきてくれたんですか。」
「水瀬が当時の私に似てたから」
それだけをいうと先輩は海を見つめた。私もまた海を見る。海からの差し出された風がいつの間にか流れていた涙にあたり、泣いていることを自覚した。
雰囲気のためだけの描写は、短い話であるならば削って、その分を他の書きたい部分に回すといいかもです。