1.小説少女はここにいる。
2.小説少女は女子高校生である。
3.小説少女の好物は寒天である。
4.小説少女は次の箇条で死ぬ。
小説少女
5.小説少女は死んだ。あと95箇条で蘇る。
6.小説少女は名探偵の指先によって刺殺された。
7.面白い推理だ、小説でも書いたらどうだい? それが小説少女の遺言となった。
8.小説少女は自分のトリックがミステリ大賞級に面白いと思っていた。
9.小説少女は何作もの小説を制作したが、その一遍も発表しなかった。
10.ジャンルは多岐にわたった。ミステリ純文恋愛SFホラー政治コメディ異世界転生BLまで幅広く書いた。その実BLを最も好んで書いていたが、小説少女はそれを誰に明かすこともなかった。
11.小説少女は横書きを好んだ。算用数字を使いやすいからだった。縦中横を心の底から嫌い、実家の猫に縦中横と名前を付けて虐めた。
12.縦中横は不細工な猫だった。本棚で爪を研ぐので、その度に小説少女に殴られた。小説少女は本を鈍器として用いた。それはコーランだったりSAVE THE CATの法則だったりした。
13.小説少女はみんなの心の中にいる。
14.さておき小説少女の住居は埼玉の南部に位置するアパートの三階である。
15.唯一の階段で立ち小便をする男性を見かけてから、家には帰っていない。小説少女はその様子を、大ヶ洞ダムの減勢工みたいだったと著した。
16.現在はネットカフェや私の家を行き来して生活している。
17.小説少女にはコップ一杯の食塩水を空気だと言い張って飲み干す悪癖がある。
18.それが母親への依存心を意味するのかは分からないが、少なくとも小説少女は肺呼吸である。
19.それを証明するエピソードとして、小説少女は喫煙所の前を通ると咳が止まらなくなる。
20.小説少女は喘息を患っている。吸入薬を吸うたびに恍惚とした表情をするのでクラスメイトからは避けられ、不良生徒からは憧れを抱かれた。
21.小説少女は教員に勉強が出来ないと思われていた。テスト時間に読書をしてしまうからである。少なくとも英語は読めるはずだった。
22.小説少女の書く小説には難しい言葉が大量に出現するが、話している分にはそういった言葉は無かった。
23.小説少女は金髪碧眼の美少女である。美しい。
24.小説少女は貴方が黒人ではなく白人を想像したことを憂いている。
25.捻くれた性格故、小説少女は友人が少ない。
26.それは現代に限った話であり、過去にはドストエヴスキや宮沢賢治、卑弥呼などと親しく、未来には火星人の友人が数万人いる。と、小説少女は主張する。
27.しかし、流石の卑弥呼でも現代において小説少女と共に昼食を食べることは出来なかった。付き合うのはいつも私だ。
28.小説少女はサンドイッチを好む。レタスの挟まれたものを特に好む。「いただきます」は常に大英帝国へと向けられている。
29.小説少女はスイカを低く評価している。嫌いなわけではないが、段々と味が薄くなる構造に疑問を抱いている。
30.七月三十一日、パラグライダー記念日を祝う為に、小説少女は六階よりビニール傘ひとつで飛び降りた。
人々は自殺を期待しカメラを構えたが、小説少女は下から吹き上げるビル風に吹かれて飛空した。
小説少女は六階の窓から七階屋上へと到達した。専門家の分析によって、この方法は従来のエレベーターを利用した移動法よりも消費電力が少なくて済むと分かった。
この研究はサイエンス誌にも掲載され、世界で絶賛された。
誰も彼女が飛び降りた理由を聞かなかった。
31.小説少女はプロの雀士だ。
32.小説少女は、人間には他人に疎外感を与える機能があると主張した。
その疎外感を与える機能を取り除けば、人類から虐めや自殺、戦争といった概念を取り払うことが出来るらしい。
小説少女は外科手術によって疎外感を与える機能の摘出を試みた。
小説少女は自らは失敗しないと主張した。
成否は敢えて述べないが、東京タワーの横に立っているアレ、元は人間だったらしい。
33.小説少女は顔の火照り、突然の動悸などに悩まされていた。
小説少女はかかりつけ医(歯医者である)の元へと向かった。
「恋の病ですか?」 小説少女は言った。
「ガンです」歯医者は言った。
小説少女は外科手術によってガン細胞の摘出を試みた。
小説少女は自らはあまり失敗はしない方だと主張した。
成否は敢えて述べないが、小説少女をタワー・オブ・テラーの最上階より拝むことが出来る。
34.小説少女は物心の付いた頃から神より拷問を受け続けている。
爪を剥がれ、肌を焼かれ、水に沈められている。
子を十二人産んで、その全ては細切れにされクローシュの内に差し出された。
小説少女は、ただの一かけも口にしなかった。
ある日、小説少女の目の前に、全ての人類を殺害するラッパが現れた。
小説少女はラッパを吹いた。仕方のないことだった。地は割れ天は裂け十二の巨大な赤子が地上を暴れまわった。
人々は小説少女を責めた。
人々は、なぜ神を責めなかっただろうか?
35.小説少女に聞いたところ、「小説少女も神を信じていたからだろう」だと返ってきた。
私は一応の納得をした。
36.小説少女は未だにガラケーを使用している。
37.小説少女はyoutuberだった。
一つ目の動画は駅前の鳩ガチで食ってみた。
二つ目の動画は謝罪動画だった。
三つ目の動画は弁当食べないで捨ててみた。
四つ目の動画は謝罪動画だった。
その後、小説少女は計算ずくの行動であり、実際に人目を引いた。世間を手のひらに乗せたのだ。と主張した。
大半の人間は興味を失っていたが、頭の弱い層が「なるほど」だとか言って小説少女を崇め始めた。
腕を組んだ小説少女が表紙に載った本も出版してぼちぼち売れた。
「これがギャップ萌えだよ」
小説少女はそう言った。
38.小説少女はvirtual youtuberだった。
小説少女が親フラの動画を撮りたいと言ったので、私は母親の真似をした。
動画はバズった。その翌日には欲しいものリストから全ての富が送られてきた。
小説少女は支援サイトを立て、その後は何も投稿しなかったが、金が入ってきた。
小説少女は沖縄へと旅行に行った。人々は沖縄へと終着する。
39.小説少女に関する重大な事実を発表する。彼女は、私の生き別れた姉なのだ。
先の大戦によって疎開する際、離れ離れになってしまったのだ。
再会したとき、私と小説少女は固く抱擁を交わした。
本当に良かった。
40.ところで、小説少女は三の付く箇条には嘘を書けと命じた。私はそれに従っている。
41.かといって、三の付かない箇条に嘘が書いていないとは限らない。面白いだろう。小説少女は言った。
42.小説少女は、名前のくせに長らく小説を書いていない。
43.理由は小説がつまらないからだと、小説少女は言っていた。
44.最近は電子ピアノを使用して作曲をしている。
45.小説少女は長らく読書をしていない。最後に読んだのは二次創作のミステリー小説だった。
46.彼女はネット上にある小説を全て読破したらしい。その上で、その小説が最も面白いと結論付けたらしい。
47.「私が小説の終わりを見たと言ったら、傲慢だと思うか?」小説少女はそう言った。
48.小説少女曰く、その小説はミステリであり純文であり恋愛でありSFでありホラーでありファンタジーであり政治でありコメディであり異世界転生でありBLでありミリタリーであり日常であり音楽であり美術であり写真であり演劇でありデザインであり映画であり漫画であり官能的であったという。
49.現在もどこかに残っているらしい。
50.小説少女は他者から理解されることを恐れている。
51.小説少女は自らを秘することで価値を曖昧なままにするのを好む。
52.それ故か、小説少女が書く小説は大変理解の難い内容である。そもそも、脈絡が通っているかも疑問である。
53.小説少女は架空の人物である。
54.小説少女は休日、格闘ゲームに勤しんでいる。
55.そのゲームは人口が少なく、数人しかいない。小説少女はそう主張しているが、度重なる煽りプレイによってプレイヤーほぼ全員からブロックされているだけである。
56.何故他者を傷つけるような行動をするのかと聞いたところ「他者を意図的に傷つけたことの無い人間の言葉に、何の説得力があるだろうか。私はこの世界で最も傷つけても良い人種を傷つけているだけだ」と主張した。
57.小説少女はBANされた。
58.小説少女はMBTI診断をしたことがある。小説少女はISTP-Aであった。
59.らしいようならしくないような、どのように質問に答えたのか聞いてみると、小説少女は全ての選択肢に反対していたことが分かった。
60.小説少女は高所恐怖症である。しかし、高所が怖いのは当然であるから、高所が怖くない高所無恐怖症の人間こそ病気であると主張している。
61.小説少女は閉所恐怖症である。しかし、閉所が怖いのは当然であるから、閉所が怖くない閉所無恐怖症の人間こそ病気であると主張している。
62.小説少女は先端恐怖症である。しかし、先端が怖いのは当然であるから、先端が怖くない先端無恐怖症の人間こそ病気であると主張している。
63.小説少女はフグを食べて死んだ。
64.小説少女は暗所無恐怖症である。
65.小説少女は「思いつく」という言葉を嫌った。彼女は、その素晴らしいアイデアの全てを「気が付いた」とした。
66.彼女が感想を作品であると認めるのも同様の理由があった。曰く、花の美しさを言葉にした時点で、それは芸術であるらしい。
それは、既に花が芸術であるからだった。
芸術は既に世界にある。それは私が言葉にする前から存在する。
私は無だ。言葉は祈りに他ならない。
あわよくば、美が現実を超えてしまわないかという、無謀な祈りを捧げているのだ。
そう言った。
67.つまるところ、芸術は濃度が肝要であり、芸術であるか否かは問題ではない。小説少女はそう主張した。何故なら全てが芸術であり、小説である。小説少女はそう言った。
68.それは、自らが小説少女を名乗る為の弁ではないか? 私が問うと、小説少女は突然「お前を免許皆伝とする」と言った。私は大変喜んだので、先ほどまで何の話をしていたか忘れてしまった。何やら物凄く話を逸らされた気がするが、恐らく気のせいである。
69.免許皆伝になった結果、小説少女は手料理を振る舞ってくれるようになった。焦げたスクランブルエッグは、ケチャップで誤魔化すよりも開き直って塩で行くべきだと学んだ。
70.小説少女は、物凄く恥ずかしがり屋である。
71.小説少女と私は同性だが、小説少女は入浴は当然一人、着替える際にも下着すら見せない。何なら脇やスカートから覗くふくらはぎすら手で遮られる。
72.小説少女は襟首に性的興奮を覚えるらしく、授業で暇なときは常に、前に座っているのが誰だろうと襟首を眺めている。
73.小説少女の部屋は割れた皿と破れた小説で埋まっている。
74.小説少女は三点リーダーを好む。小説少女は三点リーダー以外にも読書体験を豊かにする様々な記号を提案した。
75.だが、小説少女自体は三点リーダーを使用していない。オノマトペ等も使わない傾向にある。問うと、なりたいものと好きなものは違うと返ってきた。
76.小説少女は、お前は何故小説を書かないんだと聞いてきた。私は「なんとなく」と返した。
77.小説少女は私の引くピアノは美しいと思うかと聞いてきた。意図は読めなかったが、私は美しいと思うと答えた。
78.小説少女は、お前は私の事が好き過ぎるので傍にいてやると言った。それから数日間はクマの着ぐるみを着用し、顔すら見せてくれなかった。
79.ある日、小説少女は全ての言葉がくだらないと言った。この発言にも理由があり、向けられる発言にも理由がある。理由があるのならば、理由の部分だけで事足りる。そう言った。
小説少女の父親が亡くなったらしく、葬式から帰ってきた彼女はずぶ濡れだった。同行を提案したが拒否された。
うんざりだ。
口なんて付いて生まれなければよかった! 小説少女は叫んだ。
私は小説少女にキスをした。
美しい風景がみたい、草原がいい。小説少女はそう言った。
私たちは眠りに落ちた。
80.小説少女は「私はお前とは違う」と言った。何が違うのかと聞くと「言葉と音のちがい程度」と返された。
81.小説少女はナイーブでメランコリだ。
82.小説少女は、小説のタイトルに小説と付いていると気分が萎えると言った。ところで、小説少女は萎えているときの方が可愛い。
83.小説少女は心臓が七つ、脳が五つある。
84.小説少女が溌剌としている時は、本当に気の狂った人間としか思えない言動行動表情なので、色気は一切ない。
85.小説少女は双極性障害を患っている。
86.小説少女は躁鬱でいうと鬱の方がしおらしく可愛い。
87.小説少女の14357回目の躁の際、「世界から温めたレモンを撲滅する」と宣言した。その活動は多大なる支持を得て、アサヒ飲料を倒産寸前まで追い詰めた。
88.しかし、週刊誌によってスキャンダルが暴かれた。「彼女は唐揚げにレモンをかけている」。ほかほかの唐揚げにレモンをかけることによって、一時的にレモンが温まっているのではないかといった議論が発生し、元々大した結束感もなかったがゆえに、小説少女は党首の座を降ろされた。
89.小説少女の遺志を継ぐ者が、今でも衆議院で戦っている。
90.小説少女の15290回目の鬱の際、一緒に死のうと何度も言うことで私を誘惑した。非常に危険な体験だった。
91.小説少女は睡眠をすると躁鬱が切り替わる場合がある。私は小説少女が眠気を催すまで話を逸らし続けることにした。「ところで」から始まり、「好きな食べ物は?」
92.何時間が経っただろうか。小説少女は下着の色以外、全ての質問に答えてくれた。私が「好きな粘液胞子虫は何?」と聞くと、小説少女は「クドア」と言いながら眠った。
93.他殺だった。
94.小説少女は私に問うたことがある。「私が死んだら、お前はどうするか」
私は自殺をすると答えた。
それ以外に、証明の方法があっただろうか。
最も愛する者が死んだとき、尚も永らえることは、その人を最も愛する者であると認めていない事ではないだろうか。
その後、他の人間に言い寄られて、あわよくば等という可能性すら虐殺し、全てを捧げる。
しかし、それでも尚も永らえてしまうのならば。
人々が愛する者にプレゼントを贈るように、小説少女へ最大のプレゼントをするならば。
私の人生における、全ての理由を小説少女に帰着させることだと思う。
小説少女の名の下に、奉仕を行うことである。
小説少女は私の回答を九十点であると言った。
「私の代わりに死んでほしい」
小説少女はそう言った。
95.ところで、デジタル時計が生まれるまで、アナログ時計は何と呼ばれていたのだ? 数百の時計に囲まれながら私は問うた。小説少女は「最初からずっとアナログ時計と呼ばれていたよ」と言った。「私が生まれた時から少女であったように」
96.日付が変わる直前、小説少女は「そういえば、セックスくらいしておけば良かったな」と言って舌を出した。
「初めから、そうやって未練を残すつもりだったのだろう」と私は指摘した。
「お前は処女だろう、お前こそ未練があるのではないか」と、続けて指摘した。
97.面白い推理だ、小説でも書いたらどうだい? それが小説少女の遺言となった。
98.以上が、私が小説少女に為る為の留め書きである。
99.あるいは全て嘘かもしれない。小説少女なら、そのように言うのだ。
100.小説少女はここにいる。
2.小説少女は女子高校生である。
3.小説少女の好物は寒天である。
4.小説少女は次の箇条で死ぬ。
小説少女
5.小説少女は死んだ。あと95箇条で蘇る。
6.小説少女は名探偵の指先によって刺殺された。
7.面白い推理だ、小説でも書いたらどうだい? それが小説少女の遺言となった。
8.小説少女は自分のトリックがミステリ大賞級に面白いと思っていた。
9.小説少女は何作もの小説を制作したが、その一遍も発表しなかった。
10.ジャンルは多岐にわたった。ミステリ純文恋愛SFホラー政治コメディ異世界転生BLまで幅広く書いた。その実BLを最も好んで書いていたが、小説少女はそれを誰に明かすこともなかった。
11.小説少女は横書きを好んだ。算用数字を使いやすいからだった。縦中横を心の底から嫌い、実家の猫に縦中横と名前を付けて虐めた。
12.縦中横は不細工な猫だった。本棚で爪を研ぐので、その度に小説少女に殴られた。小説少女は本を鈍器として用いた。それはコーランだったりSAVE THE CATの法則だったりした。
13.小説少女はみんなの心の中にいる。
14.さておき小説少女の住居は埼玉の南部に位置するアパートの三階である。
15.唯一の階段で立ち小便をする男性を見かけてから、家には帰っていない。小説少女はその様子を、大ヶ洞ダムの減勢工みたいだったと著した。
16.現在はネットカフェや私の家を行き来して生活している。
17.小説少女にはコップ一杯の食塩水を空気だと言い張って飲み干す悪癖がある。
18.それが母親への依存心を意味するのかは分からないが、少なくとも小説少女は肺呼吸である。
19.それを証明するエピソードとして、小説少女は喫煙所の前を通ると咳が止まらなくなる。
20.小説少女は喘息を患っている。吸入薬を吸うたびに恍惚とした表情をするのでクラスメイトからは避けられ、不良生徒からは憧れを抱かれた。
21.小説少女は教員に勉強が出来ないと思われていた。テスト時間に読書をしてしまうからである。少なくとも英語は読めるはずだった。
22.小説少女の書く小説には難しい言葉が大量に出現するが、話している分にはそういった言葉は無かった。
23.小説少女は金髪碧眼の美少女である。美しい。
24.小説少女は貴方が黒人ではなく白人を想像したことを憂いている。
25.捻くれた性格故、小説少女は友人が少ない。
26.それは現代に限った話であり、過去にはドストエヴスキや宮沢賢治、卑弥呼などと親しく、未来には火星人の友人が数万人いる。と、小説少女は主張する。
27.しかし、流石の卑弥呼でも現代において小説少女と共に昼食を食べることは出来なかった。付き合うのはいつも私だ。
28.小説少女はサンドイッチを好む。レタスの挟まれたものを特に好む。「いただきます」は常に大英帝国へと向けられている。
29.小説少女はスイカを低く評価している。嫌いなわけではないが、段々と味が薄くなる構造に疑問を抱いている。
30.七月三十一日、パラグライダー記念日を祝う為に、小説少女は六階よりビニール傘ひとつで飛び降りた。
人々は自殺を期待しカメラを構えたが、小説少女は下から吹き上げるビル風に吹かれて飛空した。
小説少女は六階の窓から七階屋上へと到達した。専門家の分析によって、この方法は従来のエレベーターを利用した移動法よりも消費電力が少なくて済むと分かった。
この研究はサイエンス誌にも掲載され、世界で絶賛された。
誰も彼女が飛び降りた理由を聞かなかった。
31.小説少女はプロの雀士だ。
32.小説少女は、人間には他人に疎外感を与える機能があると主張した。
その疎外感を与える機能を取り除けば、人類から虐めや自殺、戦争といった概念を取り払うことが出来るらしい。
小説少女は外科手術によって疎外感を与える機能の摘出を試みた。
小説少女は自らは失敗しないと主張した。
成否は敢えて述べないが、東京タワーの横に立っているアレ、元は人間だったらしい。
33.小説少女は顔の火照り、突然の動悸などに悩まされていた。
小説少女はかかりつけ医(歯医者である)の元へと向かった。
「恋の病ですか?」 小説少女は言った。
「ガンです」歯医者は言った。
小説少女は外科手術によってガン細胞の摘出を試みた。
小説少女は自らはあまり失敗はしない方だと主張した。
成否は敢えて述べないが、小説少女をタワー・オブ・テラーの最上階より拝むことが出来る。
34.小説少女は物心の付いた頃から神より拷問を受け続けている。
爪を剥がれ、肌を焼かれ、水に沈められている。
子を十二人産んで、その全ては細切れにされクローシュの内に差し出された。
小説少女は、ただの一かけも口にしなかった。
ある日、小説少女の目の前に、全ての人類を殺害するラッパが現れた。
小説少女はラッパを吹いた。仕方のないことだった。地は割れ天は裂け十二の巨大な赤子が地上を暴れまわった。
人々は小説少女を責めた。
人々は、なぜ神を責めなかっただろうか?
35.小説少女に聞いたところ、「小説少女も神を信じていたからだろう」だと返ってきた。
私は一応の納得をした。
36.小説少女は未だにガラケーを使用している。
37.小説少女はyoutuberだった。
一つ目の動画は駅前の鳩ガチで食ってみた。
二つ目の動画は謝罪動画だった。
三つ目の動画は弁当食べないで捨ててみた。
四つ目の動画は謝罪動画だった。
その後、小説少女は計算ずくの行動であり、実際に人目を引いた。世間を手のひらに乗せたのだ。と主張した。
大半の人間は興味を失っていたが、頭の弱い層が「なるほど」だとか言って小説少女を崇め始めた。
腕を組んだ小説少女が表紙に載った本も出版してぼちぼち売れた。
「これがギャップ萌えだよ」
小説少女はそう言った。
38.小説少女はvirtual youtuberだった。
小説少女が親フラの動画を撮りたいと言ったので、私は母親の真似をした。
動画はバズった。その翌日には欲しいものリストから全ての富が送られてきた。
小説少女は支援サイトを立て、その後は何も投稿しなかったが、金が入ってきた。
小説少女は沖縄へと旅行に行った。人々は沖縄へと終着する。
39.小説少女に関する重大な事実を発表する。彼女は、私の生き別れた姉なのだ。
先の大戦によって疎開する際、離れ離れになってしまったのだ。
再会したとき、私と小説少女は固く抱擁を交わした。
本当に良かった。
40.ところで、小説少女は三の付く箇条には嘘を書けと命じた。私はそれに従っている。
41.かといって、三の付かない箇条に嘘が書いていないとは限らない。面白いだろう。小説少女は言った。
42.小説少女は、名前のくせに長らく小説を書いていない。
43.理由は小説がつまらないからだと、小説少女は言っていた。
44.最近は電子ピアノを使用して作曲をしている。
45.小説少女は長らく読書をしていない。最後に読んだのは二次創作のミステリー小説だった。
46.彼女はネット上にある小説を全て読破したらしい。その上で、その小説が最も面白いと結論付けたらしい。
47.「私が小説の終わりを見たと言ったら、傲慢だと思うか?」小説少女はそう言った。
48.小説少女曰く、その小説はミステリであり純文であり恋愛でありSFでありホラーでありファンタジーであり政治でありコメディであり異世界転生でありBLでありミリタリーであり日常であり音楽であり美術であり写真であり演劇でありデザインであり映画であり漫画であり官能的であったという。
49.現在もどこかに残っているらしい。
50.小説少女は他者から理解されることを恐れている。
51.小説少女は自らを秘することで価値を曖昧なままにするのを好む。
52.それ故か、小説少女が書く小説は大変理解の難い内容である。そもそも、脈絡が通っているかも疑問である。
53.小説少女は架空の人物である。
54.小説少女は休日、格闘ゲームに勤しんでいる。
55.そのゲームは人口が少なく、数人しかいない。小説少女はそう主張しているが、度重なる煽りプレイによってプレイヤーほぼ全員からブロックされているだけである。
56.何故他者を傷つけるような行動をするのかと聞いたところ「他者を意図的に傷つけたことの無い人間の言葉に、何の説得力があるだろうか。私はこの世界で最も傷つけても良い人種を傷つけているだけだ」と主張した。
57.小説少女はBANされた。
58.小説少女はMBTI診断をしたことがある。小説少女はISTP-Aであった。
59.らしいようならしくないような、どのように質問に答えたのか聞いてみると、小説少女は全ての選択肢に反対していたことが分かった。
60.小説少女は高所恐怖症である。しかし、高所が怖いのは当然であるから、高所が怖くない高所無恐怖症の人間こそ病気であると主張している。
61.小説少女は閉所恐怖症である。しかし、閉所が怖いのは当然であるから、閉所が怖くない閉所無恐怖症の人間こそ病気であると主張している。
62.小説少女は先端恐怖症である。しかし、先端が怖いのは当然であるから、先端が怖くない先端無恐怖症の人間こそ病気であると主張している。
63.小説少女はフグを食べて死んだ。
64.小説少女は暗所無恐怖症である。
65.小説少女は「思いつく」という言葉を嫌った。彼女は、その素晴らしいアイデアの全てを「気が付いた」とした。
66.彼女が感想を作品であると認めるのも同様の理由があった。曰く、花の美しさを言葉にした時点で、それは芸術であるらしい。
それは、既に花が芸術であるからだった。
芸術は既に世界にある。それは私が言葉にする前から存在する。
私は無だ。言葉は祈りに他ならない。
あわよくば、美が現実を超えてしまわないかという、無謀な祈りを捧げているのだ。
そう言った。
67.つまるところ、芸術は濃度が肝要であり、芸術であるか否かは問題ではない。小説少女はそう主張した。何故なら全てが芸術であり、小説である。小説少女はそう言った。
68.それは、自らが小説少女を名乗る為の弁ではないか? 私が問うと、小説少女は突然「お前を免許皆伝とする」と言った。私は大変喜んだので、先ほどまで何の話をしていたか忘れてしまった。何やら物凄く話を逸らされた気がするが、恐らく気のせいである。
69.免許皆伝になった結果、小説少女は手料理を振る舞ってくれるようになった。焦げたスクランブルエッグは、ケチャップで誤魔化すよりも開き直って塩で行くべきだと学んだ。
70.小説少女は、物凄く恥ずかしがり屋である。
71.小説少女と私は同性だが、小説少女は入浴は当然一人、着替える際にも下着すら見せない。何なら脇やスカートから覗くふくらはぎすら手で遮られる。
72.小説少女は襟首に性的興奮を覚えるらしく、授業で暇なときは常に、前に座っているのが誰だろうと襟首を眺めている。
73.小説少女の部屋は割れた皿と破れた小説で埋まっている。
74.小説少女は三点リーダーを好む。小説少女は三点リーダー以外にも読書体験を豊かにする様々な記号を提案した。
75.だが、小説少女自体は三点リーダーを使用していない。オノマトペ等も使わない傾向にある。問うと、なりたいものと好きなものは違うと返ってきた。
76.小説少女は、お前は何故小説を書かないんだと聞いてきた。私は「なんとなく」と返した。
77.小説少女は私の引くピアノは美しいと思うかと聞いてきた。意図は読めなかったが、私は美しいと思うと答えた。
78.小説少女は、お前は私の事が好き過ぎるので傍にいてやると言った。それから数日間はクマの着ぐるみを着用し、顔すら見せてくれなかった。
79.ある日、小説少女は全ての言葉がくだらないと言った。この発言にも理由があり、向けられる発言にも理由がある。理由があるのならば、理由の部分だけで事足りる。そう言った。
小説少女の父親が亡くなったらしく、葬式から帰ってきた彼女はずぶ濡れだった。同行を提案したが拒否された。
うんざりだ。
口なんて付いて生まれなければよかった! 小説少女は叫んだ。
私は小説少女にキスをした。
美しい風景がみたい、草原がいい。小説少女はそう言った。
私たちは眠りに落ちた。
80.小説少女は「私はお前とは違う」と言った。何が違うのかと聞くと「言葉と音のちがい程度」と返された。
81.小説少女はナイーブでメランコリだ。
82.小説少女は、小説のタイトルに小説と付いていると気分が萎えると言った。ところで、小説少女は萎えているときの方が可愛い。
83.小説少女は心臓が七つ、脳が五つある。
84.小説少女が溌剌としている時は、本当に気の狂った人間としか思えない言動行動表情なので、色気は一切ない。
85.小説少女は双極性障害を患っている。
86.小説少女は躁鬱でいうと鬱の方がしおらしく可愛い。
87.小説少女の14357回目の躁の際、「世界から温めたレモンを撲滅する」と宣言した。その活動は多大なる支持を得て、アサヒ飲料を倒産寸前まで追い詰めた。
88.しかし、週刊誌によってスキャンダルが暴かれた。「彼女は唐揚げにレモンをかけている」。ほかほかの唐揚げにレモンをかけることによって、一時的にレモンが温まっているのではないかといった議論が発生し、元々大した結束感もなかったがゆえに、小説少女は党首の座を降ろされた。
89.小説少女の遺志を継ぐ者が、今でも衆議院で戦っている。
90.小説少女の15290回目の鬱の際、一緒に死のうと何度も言うことで私を誘惑した。非常に危険な体験だった。
91.小説少女は睡眠をすると躁鬱が切り替わる場合がある。私は小説少女が眠気を催すまで話を逸らし続けることにした。「ところで」から始まり、「好きな食べ物は?」
92.何時間が経っただろうか。小説少女は下着の色以外、全ての質問に答えてくれた。私が「好きな粘液胞子虫は何?」と聞くと、小説少女は「クドア」と言いながら眠った。
93.他殺だった。
94.小説少女は私に問うたことがある。「私が死んだら、お前はどうするか」
私は自殺をすると答えた。
それ以外に、証明の方法があっただろうか。
最も愛する者が死んだとき、尚も永らえることは、その人を最も愛する者であると認めていない事ではないだろうか。
その後、他の人間に言い寄られて、あわよくば等という可能性すら虐殺し、全てを捧げる。
しかし、それでも尚も永らえてしまうのならば。
人々が愛する者にプレゼントを贈るように、小説少女へ最大のプレゼントをするならば。
私の人生における、全ての理由を小説少女に帰着させることだと思う。
小説少女の名の下に、奉仕を行うことである。
小説少女は私の回答を九十点であると言った。
「私の代わりに死んでほしい」
小説少女はそう言った。
95.ところで、デジタル時計が生まれるまで、アナログ時計は何と呼ばれていたのだ? 数百の時計に囲まれながら私は問うた。小説少女は「最初からずっとアナログ時計と呼ばれていたよ」と言った。「私が生まれた時から少女であったように」
96.日付が変わる直前、小説少女は「そういえば、セックスくらいしておけば良かったな」と言って舌を出した。
「初めから、そうやって未練を残すつもりだったのだろう」と私は指摘した。
「お前は処女だろう、お前こそ未練があるのではないか」と、続けて指摘した。
97.面白い推理だ、小説でも書いたらどうだい? それが小説少女の遺言となった。
98.以上が、私が小説少女に為る為の留め書きである。
99.あるいは全て嘘かもしれない。小説少女なら、そのように言うのだ。
100.小説少女はここにいる。