zorozoro - 文芸寄港

秋、親愛なるきみへ。

2024/09/23 20:10:16
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 秋!
 秋!
 秋!

 やっと来てくれたね。ずっと待ってたよ。夏のあいだ、6月くらいからずっと。
 ……ああ! きみが来てくれたのがどれだけ嬉しいことか!
 昨日の夜、外に出る前に気温を確認したら、25度。あ、ついに秋が来たんだと思って、わたしはうきうきしながら家のドアを開けたの。涼しかった。心地よかった。わたしと空気が確かにつながって、同じ高さにいるのを感じた。なんとも言えない嬉しさがこみ上げてきた。温かいけど熱くはない、そんな気持ち。それで、わたしは思いっきり深呼吸をしたの。その途端に涼しい空気が身体の中に入ってきて、溶け込んでいって。嬉しさでいっぱいになった。思わず笑っちゃって、肩の力がふっと抜けた。
 夏にはそんなことできなかった。いくら息を吸ってもじめっとした熱い空気が入ってくるだけだった。どこも息苦しくて、のどの奥がきゅうっと締め付けられるような気がずっとしてた。
 それが、秋、あなたが来たら、もうそんないやな感覚は全然感じなくなって、体が軽くなったの。わたしのほんとの重さの体に戻ったの。それがまた嬉しくて。
 嬉しかったって言い過ぎだね。でも嬉しいんだよ。これはほんと、今にもあふれ出しそうな嬉しさを、この文を書いてなんとか表してる。
 で、帰ってきて、お風呂に行って、やっときみに会えた喜びを胸いっぱいに抱いてベッドで目をつぶったら、不思議なほど安らかに、ころっと眠れたの。それまでずっと朝までさっぱり眠れなかったのに。カーテン越しの空が白く明るくなってくるのを起きてから見るなんて、いつぶりか、とにかく久しぶりのことだった。今朝は外に出てから、青空を見上げるたび、風が吹くたびにきみの気配を感じて、すっかり眠気も覚めちゃった。

……でも、たぶんきみは、すぐにいなくなっちゃうんだよね。きみはいつの間にか、すうっと指の間をすり抜けるみたいにいなくなっちゃう。いつもそう。すぐにこの心地よい風や空気は冷たく鋭くなっていってしまう。きみはほのかな、涼しくて暖かい笑顔を浮かべながら、冬の高くて澄み切った空に消えていってしまう。しょうがないんだけどさ。
ほんとはぎゅっと抱きしめて、ずっとそのまま離さないでいたいの。ずっと秋のまま、きみのまま、変わらないでいてほしいの。ずっときみの涼しさと温もりを感じていたいの。でも、…………。

お願いだから、

お願いだから、今だけは、

ずっとそばにいてね。
秋が来たのがあまりにもうれしかったので。
玖鳥一珂
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コメント



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1.80名も無き文芸生削除
冬より秋の方が暗いって感じがします。それが嫌とかではなく、居心地が良いような
2.80べに削除
秋から冬にかけてのこの涼しく冷たい感じが現れていてよかったと思います。最近は秋、短くなってきて悲しいですよね。