zorozoro - 文芸寄港

いつ始まったのかわからない

2024/06/15 00:04:58
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 意思の切断と創成。天使エリ(あまつかエリ)は、また目を開いた。うっすらと瞼越しから感じる白色灯の刺激によって。
「起きた? 起きたか、エリち」
 興奮で汗をかき始めている少々小太りの男。部屋着は地味目で、女性に会うのになんの恥じらいもない。そういう男にエリは何度も逢ってきた。またか、と思う。いやそれが常なのだけれど。
「誰?」
 もはや決まった返しだった。
「俺、『ヒビヤ@エリ推し」って名前でいつもスパチャしてるんだけど……』
「あ、ああ! ヒビヤくんね、いつもありがとう。ところで」
 エリはわざとらしく自分の体に視線を向けた。3Dプリンターで生成された肌色の肉体は、肉の赤さをうまく表現している。また裸だ。胸も下も露出したまま。
 服を着せて、とエリは顎で指示をする。
「ああ、そうだった。ごめんごめん忘れてた」
 ヒビヤの背に事前に用意されていた洋服が一色置いてあった。こいつの趣味はこれか、とエリは品定めをする。下着もブラも、全部事前に決められる。いつ頃か着るものにパターンが生まれたが、オタクが情報を共有しているんだろうと冷めた感情でエリは受け止めていた。
 エリは服を着ると一息入れて言った。
「さて、私を呼び出した理由は何?」
 Vtuberという文化は興って六十年。アバターは神格化され、進化した3Dプリンターと奇妙なVtuber神道で、人はアバターの肉体を呼び出せるようになった。そこになぜ意識が乗るようになったのかは今でもわかっていない。
 男はつらつらと喋り出した。女性経験に恵まれず、エリに一目惚れをした。呼び出しレビューも評判で、この人になら全てを賭けてもいいと思った。プリンターは高かった、仕事を切り詰めて貯めた、そんなところを男は述べた。
「なに、私をそういう目で見てたわけ?」
 エリは不快に男を見つめた。少しの幅を持たせて。幅、というのは駆け引きで融通を利かせば望みは叶うんじゃないか、という隙のある態度だ。エリはいつの間にか、そういう釣り出しの甘さを身につけた。
「じゃあ、」
 良しとするか拒否するかは結局のとことエリの気分次第だった。どうせ、尽くしてもまたどこかで新しい体とともに受肉して、いいようにさせられるのだという諦念が、このいつ始まったのかわからない地獄を長引かせる。
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コメント



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1.100v狐々削除
面白く良かったです。この短さで、このインパクト。倫理的に不快な部位を弄られているような感覚がありました。
2.80鬼氏削除
良い設定だと思いました。