むかしむかしあるところに、鶴がありました。
鶴は猟師の罠にかかって苦しんでいました。
そこに小鳥という名の少女が通りかかりました。
小鳥は両手にレジ袋いっぱいのユンケルを携えていますた。
いますた……
「そこのお方……私にユンケルを分けてくれませんか」
「えー、人生唯一の楽しみが週末のユンケルパーティーなのに」
「お願いします、必ず恩は返しますから」
「えー」
小鳥は数秒間悩みました。
鳥にユンケル飲ませていいのか?
「じゃあ、一本だけなら」
「ありがとうございます、この恩は必ず……」
鶴は恭しくユンケルを受け取ると、一口飲み、吐いた。
不幸にも、鶴が手に取ったユンケルローヤルC2は特別に不味かった。
そうして生まれたのが平等院、高校二年生みずタイプ。技構成はまもる みがわり めいそう ねっとう
小鳥と同じ宮城にある私立東マケドニア日本語高校に通っている。
東マケドニア高校には文学科と数学科があり熾烈な争いを繰り広げており、それは七つの国宝と三つの平面世界、そして魔法によって隠された秘密、聖女の存在、地の裏に伸びる大樹などが原因だが今回は割愛する。
二人は聖チャクラム部(ホーリーチャクラムクラブ)に所属している。
こちらも深い歴史があるが割愛。
短編に設定なんて要らないのだ。
平等院は親がシベリアへ渡ってしまったので小鳥の部屋に住んでいた。
同棲だった。
合鍵を作らないのかと小鳥に聞いた平等院だったが、すぐに必要が無いと分かった。施錠する鍵穴が無かったからだ。気の良い天井は雨にお通し、寝返りを打てば床が嘶く(窓はある!!!!!!!!!!!!!!)。つまるところ築七十年だった。大家が由緒ある毒使いらしいのでシロアリは出なかったのが彼女にとっての幸いだった。蛾は入ってくる、それも大きい奴がだ。少し前までは啄んでしまえば良かったのだが、一丁前にセーラー服なんか着こなすものだから虫を見るとキャアと鳴くようになってしまったのだ。やや腐った部屋で一番モダンな物はトイレで、温水ウォシュレット付きだった。
家賃は十万円……年間である。学割だそうだが、その安さには野性での生活が長かった平等院としても驚いた。底冷えする部屋の中ではTOTOの温便座と、事あるごとにボロくてごめんねと言ってくれる大家の毒おばあちゃんだけが暖かい。小鳥のやつは冷え性でダメだ。漬物石にしては五月蠅く、抱き枕にしても出来が悪い。
なので布団の中では小鳥に対して背を向けて寝るのだが、今夜はそうでもなかった。怠くてしょうがない時給九百三十円のコンビニバイトを終わらせて帰ってきたと思えば、既に小鳥が寝てしまっていたからだ。愚痴を吐きながら開いた玄関ドアの先は何とも寂しく、平等院をメランコリーに誘った。
眠れるまでの間、平等院は小鳥を見つめた。別に可愛くもなんともない。週一でユンケルに入浴する迷惑女。容姿も別に普通だ。でもまともな金があって、化粧なんかしたら、結構いい線行くんだろうな。なんて思った。手を伸ばして頬を撫でてみる。低い体温、ろくにバイトも出来ないバカのくせに人を拾うバカ。超バカ……平等院の意識は、睫の本数を数えるうちに沈んでいった。
微かに、ぎぎっと木材が軋む音が鳴って、平等院は自分でも驚くほどぱっちりと目が開いたのを自覚した。
枕元に誰かいる、小鳥じゃない。
平等院は飛び起きようとしたが、それは叶わなかった。右腕が小鳥の頭の下にあったからだ。
「誰ですか?」
返事を待つまでも無かった。そいつは枕元に立っていて、その容姿は、黒装束は、紛れもなく忍者であったからだ。
「私は古畑任三郎の大ファンです、あなたには死んでもらいます」
鍵もかけてない部屋に古畑任三郎は来ねえよ! 平等院の頭は寝起きにも関わらずフル回転を強いられた。
不味い、このままではバラバラにされて意味深な配置に捨てられてしまう。
「この……ナイフで……聖書を刻んで……糸と氷を組み合わせた仕掛けで……」
忍者は意味不明なトリックを垂れ流している。
部活動に使うチャクラムは鞄の中だ、遠い。そもそも小鳥から離れるわけにはいかない。「みがわり」を使えば自分だけは助かるが……ダメだダメだ、クソ不味いユンケルを飲ませてきた借りを返してもらっていない。
何とか小鳥だけでも逃がせないだろうか。
「あなたの考えていることはわかります、だが、忍者から逃げられるわけがないでしょう!」
「やってみなきゃ分からないじゃないですか」
「あはははは! 愚かな子娘よ、人間では忍者からは逃げられないのです!」
「確かに人間なら無理かもしれないですね。でも……」
そこまで言って、平等院は勢い良く布団から飛び出した。ドアでも窓でもない壁の方向へ逃げ出したのだ。
「逃がしません」
そんな抵抗も虚しく。すぐさま忍者が追いつき、平等院を押し倒した。身体が壁にぶつかりミシミシと音を立てる。
「無駄です、さあ! チョークで描かれた白線になってもらいますよ」
振り下ろされるナイフ。しかし、平等院は不敵に笑った。
「死ぬのはお前だ、忍者!」
「どぉすこーい!!!!」
その時、壁を突き破って巨影が飛び出した。
「こ、このジャストガードし辛い絶妙な速度! ぐわあああ!」
忍者は爆発して死んだ。
後には平等院とスヤスヤの小鳥、力士だけが残った。
薄い壁を一枚挟んだ場所には、”あの”SEXするか力士を倒さないと出られない部屋があったのだ。
「ありがとう、力士……やってくれると思っていました」
サプライズ忍者は確かに侮れない。だが、力士はスピード、パワー、テクニック、全てにおいて忍者を上回った。
力士に勝るものは無いのだ。
ありがとう力士、フォーエバー。
しかし、平等院と小鳥は知る由もない。SEXするか力士を倒さないと出られない部屋は、場所の名称ではない。
力士がいる場所が、SEXしないと出られない部屋になるのだ。
Next Conan's HINT……カポエイラ
鶴は猟師の罠にかかって苦しんでいました。
そこに小鳥という名の少女が通りかかりました。
小鳥は両手にレジ袋いっぱいのユンケルを携えていますた。
いますた……
「そこのお方……私にユンケルを分けてくれませんか」
「えー、人生唯一の楽しみが週末のユンケルパーティーなのに」
「お願いします、必ず恩は返しますから」
「えー」
小鳥は数秒間悩みました。
鳥にユンケル飲ませていいのか?
「じゃあ、一本だけなら」
「ありがとうございます、この恩は必ず……」
鶴は恭しくユンケルを受け取ると、一口飲み、吐いた。
不幸にも、鶴が手に取ったユンケルローヤルC2は特別に不味かった。
そうして生まれたのが平等院、高校二年生みずタイプ。技構成はまもる みがわり めいそう ねっとう
小鳥と同じ宮城にある私立東マケドニア日本語高校に通っている。
東マケドニア高校には文学科と数学科があり熾烈な争いを繰り広げており、それは七つの国宝と三つの平面世界、そして魔法によって隠された秘密、聖女の存在、地の裏に伸びる大樹などが原因だが今回は割愛する。
二人は聖チャクラム部(ホーリーチャクラムクラブ)に所属している。
こちらも深い歴史があるが割愛。
短編に設定なんて要らないのだ。
平等院は親がシベリアへ渡ってしまったので小鳥の部屋に住んでいた。
同棲だった。
合鍵を作らないのかと小鳥に聞いた平等院だったが、すぐに必要が無いと分かった。施錠する鍵穴が無かったからだ。気の良い天井は雨にお通し、寝返りを打てば床が嘶く(窓はある!!!!!!!!!!!!!!)。つまるところ築七十年だった。大家が由緒ある毒使いらしいのでシロアリは出なかったのが彼女にとっての幸いだった。蛾は入ってくる、それも大きい奴がだ。少し前までは啄んでしまえば良かったのだが、一丁前にセーラー服なんか着こなすものだから虫を見るとキャアと鳴くようになってしまったのだ。やや腐った部屋で一番モダンな物はトイレで、温水ウォシュレット付きだった。
家賃は十万円……年間である。学割だそうだが、その安さには野性での生活が長かった平等院としても驚いた。底冷えする部屋の中ではTOTOの温便座と、事あるごとにボロくてごめんねと言ってくれる大家の毒おばあちゃんだけが暖かい。小鳥のやつは冷え性でダメだ。漬物石にしては五月蠅く、抱き枕にしても出来が悪い。
なので布団の中では小鳥に対して背を向けて寝るのだが、今夜はそうでもなかった。怠くてしょうがない時給九百三十円のコンビニバイトを終わらせて帰ってきたと思えば、既に小鳥が寝てしまっていたからだ。愚痴を吐きながら開いた玄関ドアの先は何とも寂しく、平等院をメランコリーに誘った。
眠れるまでの間、平等院は小鳥を見つめた。別に可愛くもなんともない。週一でユンケルに入浴する迷惑女。容姿も別に普通だ。でもまともな金があって、化粧なんかしたら、結構いい線行くんだろうな。なんて思った。手を伸ばして頬を撫でてみる。低い体温、ろくにバイトも出来ないバカのくせに人を拾うバカ。超バカ……平等院の意識は、睫の本数を数えるうちに沈んでいった。
微かに、ぎぎっと木材が軋む音が鳴って、平等院は自分でも驚くほどぱっちりと目が開いたのを自覚した。
枕元に誰かいる、小鳥じゃない。
平等院は飛び起きようとしたが、それは叶わなかった。右腕が小鳥の頭の下にあったからだ。
「誰ですか?」
返事を待つまでも無かった。そいつは枕元に立っていて、その容姿は、黒装束は、紛れもなく忍者であったからだ。
「私は古畑任三郎の大ファンです、あなたには死んでもらいます」
鍵もかけてない部屋に古畑任三郎は来ねえよ! 平等院の頭は寝起きにも関わらずフル回転を強いられた。
不味い、このままではバラバラにされて意味深な配置に捨てられてしまう。
「この……ナイフで……聖書を刻んで……糸と氷を組み合わせた仕掛けで……」
忍者は意味不明なトリックを垂れ流している。
部活動に使うチャクラムは鞄の中だ、遠い。そもそも小鳥から離れるわけにはいかない。「みがわり」を使えば自分だけは助かるが……ダメだダメだ、クソ不味いユンケルを飲ませてきた借りを返してもらっていない。
何とか小鳥だけでも逃がせないだろうか。
「あなたの考えていることはわかります、だが、忍者から逃げられるわけがないでしょう!」
「やってみなきゃ分からないじゃないですか」
「あはははは! 愚かな子娘よ、人間では忍者からは逃げられないのです!」
「確かに人間なら無理かもしれないですね。でも……」
そこまで言って、平等院は勢い良く布団から飛び出した。ドアでも窓でもない壁の方向へ逃げ出したのだ。
「逃がしません」
そんな抵抗も虚しく。すぐさま忍者が追いつき、平等院を押し倒した。身体が壁にぶつかりミシミシと音を立てる。
「無駄です、さあ! チョークで描かれた白線になってもらいますよ」
振り下ろされるナイフ。しかし、平等院は不敵に笑った。
「死ぬのはお前だ、忍者!」
「どぉすこーい!!!!」
その時、壁を突き破って巨影が飛び出した。
「こ、このジャストガードし辛い絶妙な速度! ぐわあああ!」
忍者は爆発して死んだ。
後には平等院とスヤスヤの小鳥、力士だけが残った。
薄い壁を一枚挟んだ場所には、”あの”SEXするか力士を倒さないと出られない部屋があったのだ。
「ありがとう、力士……やってくれると思っていました」
サプライズ忍者は確かに侮れない。だが、力士はスピード、パワー、テクニック、全てにおいて忍者を上回った。
力士に勝るものは無いのだ。
ありがとう力士、フォーエバー。
しかし、平等院と小鳥は知る由もない。SEXするか力士を倒さないと出られない部屋は、場所の名称ではない。
力士がいる場所が、SEXしないと出られない部屋になるのだ。
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