その日、空からラーメンが降った。
いつになく平穏で、気象状況も例年通り。目立った異常気象はなく、これぞまさしく日本の四季なり、といった具合であった。
しかし。突如として丸一日、ラーメンが降り続いた。そう、あのラーメンだ。何度読み返しても同じだぞ。ラーメンだ。
薄く黄みがかった麺から、濃い茶色の醤油スープ、メンマや鳴門や海苔までが、空の彼方のどこかから、一斉に降ってきた。人々は大変驚いた。驚かない者はいなかった。
災害的な意味での被害は大きかった。各地の下水道は迫りくるラーメンの具で詰まりに詰まり、硬いメンマや鳴門は脆い民家の屋根を突き破り、一家団欒のお茶の間に降り注いだ。当然、死者もあったという。
そしてこのラーメン、降ってくる具材やスープの味に、地域差があった。北海道や東北では味噌、関東や近畿は醤油、九州四国では豚骨、といったように、律義にご当地別でその種類が違ったのである。ちなみに、にわかには信じがたいが沖縄ではソーキそばが降ったらしい。(というかそもそもの話が、にわかには信じがたいのだが)
加えてそのラーメン、まるでそれぞれのラーメンの完成系とでもあるかのように、絶品も絶品。人里離れた山奥にラーメンの泉ができ、わざわざ険しい山道を足しげく通う者まで現れたそうだ。当然、その味を再現しようと奮闘する輩も多く、ネット上には数多くのレシピが投稿された。しかし、そのすべてはどれも再現とは言うものの本物の味には程遠く、誰もがあのラーメンをもう一度味わいたいと願った。大金をはたいて、プロの料理人に依頼する富裕層まで現れたらしい。
そんな中、東京にて研究を重ねた者がその味の完全再現に成功し、店を開いた。その驚くべき再現度に、店は大繁盛。名立たる芸能人から、各国の官僚までもが訪れる大人気店となり、一世を風靡した。店の主人はそのレシピを公開することなく、今でもなお、それを知る者は店を継いだ子孫のみである。
その後全国各地に、その地域で降ったラーメンの味を再現するラーメン屋が現れたが、どこも評価はいまいちであり、東京の元祖再現醤油ラーメンを超える店は出てこなかった。
そんなこんなで、僕で八代目。曾曾曾曾曾祖父の代から続くこの店は、今日も大繁盛である。代々伝わる、レシピ口外禁止の掟を守りつつ、千客万来、どこのものよりも美味いラーメンを提供している。この頃、どんな味、食感にでも化ける万能フードなるものが開発されたらしいが、うちのラーメンをひとたび味わおうとやってくるお客は後を絶たない。どれほど技術が進もうと、食の楽しみは潰えないのである。それはうちが保証する。
結局原因はわからず仕舞いで終わったあの超天変地異であるが、それは今日の後世まで、食の魅力を絶やさず守り続けてきた。毎食の万能フードで飽き飽きしているそこの君、一度、うちで最高のラーメンを味わってみないか。
いつになく平穏で、気象状況も例年通り。目立った異常気象はなく、これぞまさしく日本の四季なり、といった具合であった。
しかし。突如として丸一日、ラーメンが降り続いた。そう、あのラーメンだ。何度読み返しても同じだぞ。ラーメンだ。
薄く黄みがかった麺から、濃い茶色の醤油スープ、メンマや鳴門や海苔までが、空の彼方のどこかから、一斉に降ってきた。人々は大変驚いた。驚かない者はいなかった。
災害的な意味での被害は大きかった。各地の下水道は迫りくるラーメンの具で詰まりに詰まり、硬いメンマや鳴門は脆い民家の屋根を突き破り、一家団欒のお茶の間に降り注いだ。当然、死者もあったという。
そしてこのラーメン、降ってくる具材やスープの味に、地域差があった。北海道や東北では味噌、関東や近畿は醤油、九州四国では豚骨、といったように、律義にご当地別でその種類が違ったのである。ちなみに、にわかには信じがたいが沖縄ではソーキそばが降ったらしい。(というかそもそもの話が、にわかには信じがたいのだが)
加えてそのラーメン、まるでそれぞれのラーメンの完成系とでもあるかのように、絶品も絶品。人里離れた山奥にラーメンの泉ができ、わざわざ険しい山道を足しげく通う者まで現れたそうだ。当然、その味を再現しようと奮闘する輩も多く、ネット上には数多くのレシピが投稿された。しかし、そのすべてはどれも再現とは言うものの本物の味には程遠く、誰もがあのラーメンをもう一度味わいたいと願った。大金をはたいて、プロの料理人に依頼する富裕層まで現れたらしい。
そんな中、東京にて研究を重ねた者がその味の完全再現に成功し、店を開いた。その驚くべき再現度に、店は大繁盛。名立たる芸能人から、各国の官僚までもが訪れる大人気店となり、一世を風靡した。店の主人はそのレシピを公開することなく、今でもなお、それを知る者は店を継いだ子孫のみである。
その後全国各地に、その地域で降ったラーメンの味を再現するラーメン屋が現れたが、どこも評価はいまいちであり、東京の元祖再現醤油ラーメンを超える店は出てこなかった。
そんなこんなで、僕で八代目。曾曾曾曾曾祖父の代から続くこの店は、今日も大繁盛である。代々伝わる、レシピ口外禁止の掟を守りつつ、千客万来、どこのものよりも美味いラーメンを提供している。この頃、どんな味、食感にでも化ける万能フードなるものが開発されたらしいが、うちのラーメンをひとたび味わおうとやってくるお客は後を絶たない。どれほど技術が進もうと、食の楽しみは潰えないのである。それはうちが保証する。
結局原因はわからず仕舞いで終わったあの超天変地異であるが、それは今日の後世まで、食の魅力を絶やさず守り続けてきた。毎食の万能フードで飽き飽きしているそこの君、一度、うちで最高のラーメンを味わってみないか。