zorozoro - 文芸寄港

シンギュラリティ

2024/04/18 09:14:33
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「ご主人様、ここを右折した先がミユ様のお墓になります」
「了解、ナビゲートありがとう」
黄色く色づいたイチョウ並木の通りを「ナツミ」と二人で歩く。二人と言っても、今僕と歩いているのは汎用型人工知能を搭載したロボット、NAMI-ⅡⅢだ。愛称として「ナツミ」と呼んでいる。このロボットの開発者であり僕の妻だったミユが病死して以来、僕はこの非人間的な存在である「ナツミ」と生活を共にしている。
「ご主人様、寒くはございませんか? もし寒ければ私と手を繋いで歩きましょう」
 人工の髪を揺らしながら僕の少し前を歩くナツミが手を繋いできた。触れた手は機械なので、冷たい。
「……いや、大丈夫かな」
 もうミユの墓石の前まで着くので、僕はやんわりと断ってみた。心なしか、ナツミは拗ねたような顔をしたように見えたが、すぐに前に向き直ってしまった。
こんな風に、ナツミには接触を試みるような動作がよく見られる。本来NAMI-ⅡⅢは感情を持つことはないのだが、ミユに何か拡張機能でもインストールされたのだろうか。なんとなく好意を寄せられているような気がする。

 少し歩くと、僕らはミユが眠る墓石の前に着いた。妻の前に屈んで手を合わせる。墓石は小さくて、かつて人だった存在がここに収まるということに僕は少し怖さを感じた。ロボットと違って肉体はいつか必ず朽ちるんだ。いつかは僕もこうなるのだろう。
 僕が静かに俯いていると、不意にナツミがゆっくりと腕を回して抱き着いてきた。
「……ナツミ、どうした?」
「生前のミユ様から、ご主人様が寂しそうな顔をしたらこうするようにと教わりました。『私がいなくても愛される存在であるように』とのことです」
 合成音声特有の抑揚の少ない声で、ナツミが言う。ミユの計らいに、僕は嬉しく思った。
「あぁ、やっぱりミユのプログラムだったのか。形だけでも、誰かに好かれるのは嬉しいよ」
「いえ、プログラムされた行動ではありますが、私はミユ様に教わらなかったとしても、きっとこの行動をとったと思われます。私はこれから、ご主人様にとってのミユ様のような存在になりたいと思っています」
 予想外の答えに、僕は少し戸惑った。妻の前なのに、僕は機械の君に好かれてしまったようだ。これ、浮気にはならないかな。
 答えに困ったが、僕はナツミからの好意を受け入れてみることにした。
「……そうか、ありがとう。これからもよろしくね」
 機械の君と人間の僕の不思議な関係がこの先どうなるのかは分からない。でも、かつてミユとそうしてきたように、誰かの愛に応えながら生きるのも一つの選択肢なのかもしれないと、僕は思った。
「ナツミ、折角だから手を繋いで帰ろうか」
「……はい。喜んで承ります」
 心なしか、ナツミが嬉しそうな顔をしたような気がする。僕らは秋晴れの空の下、手を繋いで歩いた。
繋がれた手から熱は伝わらない代わりに、不確かな愛が伝わってくるような、そんな気がした。
悪くないと思ったんだけどなぁ
HandCuff
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コメント



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1.80🦭削除
当たり前を説明以外で描写できるといいかも〜
2.80べに削除
着眼点も機械と人間の機微も分けられてて好き
3.80削除
機械特有の描写が好き。個人的には妻の描写がもっと欲しいかなと思った。
4.90鬼氏削除
仮面ライダーゼロワンの最終回みたいでした。妻の代替ではなく、新しい愛情を向ける相手にした方が爽快感のあるハッピーエンドになったのかも知れません、でも滅茶苦茶好きです。あとがきでマイナス10点しました。
5.80v狐々削除
良い完成度、浮気を気にするのが良い。タイトルセンスは微妙。主人公が車椅子だったら色々説得力が出てよかったんじゃないかな。