「ねぇ、私、いつもと違うの。どこが変わったか分かる?」
「……ちょっと太った?」
*
目が覚めると保健室のベッドの上だった、どうやら気絶していたらしい。
それにしても胴回し回転蹴りとは……口の中から血の味がする。時計の針は五時を指しており、窓からは茜色の空が覗いていた。
「起きたんだ、永遠に寝ていればよかったのに」
ソファに腰かけて頬を膨らませているのは、幼馴染の鴇子(ときこ)であった。
「許してよ」
「やだ」
「ほんの冗談だって、僕と君の仲じゃないか」
こうなると鴇子は手が付けられない、付き合いが長いから分かる。一週間は機嫌を取り続ける必要がある……と思っていたのだが、今回は何がお気に召したのか、少し態度をやわらげた。
「……それもそうね、じゃあチャンスをあげる。次よ、次の一回で、どこが変わったか当てたら許したげる」
「蹴ったことも謝ってくれる?」
「知らないわよ、あんたが勝手に倒れたの」
鴇子は僕の脛をゲシゲシと蹴った、人を傷つけるのに遠慮が無い! 次も外したとなると、いよいよ命に係わるだろう、僕は両目を擦って鴇子へと向き直った。
まず怪しいのは髪だろうか、鴇子は肩口に届かない程度のミディアムヘアで、髪留めを付けたりはしていない。だが、前髪を切っていたりするかもしれない。待てよ、シャンプーを変えたという線は無いだろうか! この艶やかな髪だ。よっぽど丁寧に手入れをしているはず。
「髪の毛嗅いでいい?」
「本当に殺すわよ」
確かめるのは無理そうだ、あるいは命と引き換えになるだろう。
顔はどうだろうか、鴇子の顔を真正面に据える。きりっとした瞳に、長い睫毛が影を落としている。化粧は校則で禁止されているけど、もしかしたら色付きリップをしていたりするかもしれない。それにしても整った顔立ちだ、鼻筋はシャープなのに対し、ぷるっとした瑞々しい唇が可愛らしい──などと考えていると、鴇子は不意に口を開いた。
「ねえ、空(そら)」
僕の名前だ。
「今、結構、顔近いわね」
そう囁かれた途端、ふわりと良い香りがして……僕の心臓は動作不良を起こしたみたいにどくどくと鳴りだした。そのせいだ、つい、ぽつっと零してしまったのは。
「……ちょっと可愛くなった?」
鴇子は真顔を崩さない。沈黙が続く中、やってしまったかなと思い始めたころ、鴇子は口を開いた。
「はぁ、二十点ね。でも悪くない気分だし、もういいわ」
あっさりした返答だった。僕はといえば、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていただろうと思う。
「こんなこと言ったら、いつもは怒るじゃん」
「まあ、そろそろ私が女の子だってさ、気が付いてくれても良いんじゃないかなって」
「なんだよそれ」
鴇子は「ばーか!」といって外へ向かって歩き出した。滅茶苦茶だと思ったけど、夕陽に照らされた笑顔がとても輝いて見えたので、僕はいつも通り、横に並んで帰路へ着いた。
「本当はどこが違ったのさ」
「あんたのパンツ履いてんの」
「……ちょっと太った?」
*
目が覚めると保健室のベッドの上だった、どうやら気絶していたらしい。
それにしても胴回し回転蹴りとは……口の中から血の味がする。時計の針は五時を指しており、窓からは茜色の空が覗いていた。
「起きたんだ、永遠に寝ていればよかったのに」
ソファに腰かけて頬を膨らませているのは、幼馴染の鴇子(ときこ)であった。
「許してよ」
「やだ」
「ほんの冗談だって、僕と君の仲じゃないか」
こうなると鴇子は手が付けられない、付き合いが長いから分かる。一週間は機嫌を取り続ける必要がある……と思っていたのだが、今回は何がお気に召したのか、少し態度をやわらげた。
「……それもそうね、じゃあチャンスをあげる。次よ、次の一回で、どこが変わったか当てたら許したげる」
「蹴ったことも謝ってくれる?」
「知らないわよ、あんたが勝手に倒れたの」
鴇子は僕の脛をゲシゲシと蹴った、人を傷つけるのに遠慮が無い! 次も外したとなると、いよいよ命に係わるだろう、僕は両目を擦って鴇子へと向き直った。
まず怪しいのは髪だろうか、鴇子は肩口に届かない程度のミディアムヘアで、髪留めを付けたりはしていない。だが、前髪を切っていたりするかもしれない。待てよ、シャンプーを変えたという線は無いだろうか! この艶やかな髪だ。よっぽど丁寧に手入れをしているはず。
「髪の毛嗅いでいい?」
「本当に殺すわよ」
確かめるのは無理そうだ、あるいは命と引き換えになるだろう。
顔はどうだろうか、鴇子の顔を真正面に据える。きりっとした瞳に、長い睫毛が影を落としている。化粧は校則で禁止されているけど、もしかしたら色付きリップをしていたりするかもしれない。それにしても整った顔立ちだ、鼻筋はシャープなのに対し、ぷるっとした瑞々しい唇が可愛らしい──などと考えていると、鴇子は不意に口を開いた。
「ねえ、空(そら)」
僕の名前だ。
「今、結構、顔近いわね」
そう囁かれた途端、ふわりと良い香りがして……僕の心臓は動作不良を起こしたみたいにどくどくと鳴りだした。そのせいだ、つい、ぽつっと零してしまったのは。
「……ちょっと可愛くなった?」
鴇子は真顔を崩さない。沈黙が続く中、やってしまったかなと思い始めたころ、鴇子は口を開いた。
「はぁ、二十点ね。でも悪くない気分だし、もういいわ」
あっさりした返答だった。僕はといえば、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていただろうと思う。
「こんなこと言ったら、いつもは怒るじゃん」
「まあ、そろそろ私が女の子だってさ、気が付いてくれても良いんじゃないかなって」
「なんだよそれ」
鴇子は「ばーか!」といって外へ向かって歩き出した。滅茶苦茶だと思ったけど、夕陽に照らされた笑顔がとても輝いて見えたので、僕はいつも通り、横に並んで帰路へ着いた。
「本当はどこが違ったのさ」
「あんたのパンツ履いてんの」