「坂田も今日、グラウンドのどこかで見ているかなぁ」
金村はそう言いながら、僕の背中をポンっと叩き、意気揚々とライトの守備へと向かっていった。叩かれた僕は帽子をギュッと深く被り、後を追うようにセンターのポジションへと向かった。
ポジションへと向かっている最中、僕は一度球場全体を見渡した。
両チームのピリピリとした空気とスタンドの熱気がこもる甲子園球場。
猛暑だと言われた今年の夏も今日で最後、泣いても笑っても今日で最後だ。
九回裏、相手の攻撃。スコアは三対二。この回を守り切れば、僕らの優勝。
人生の大一番で、僕はさっきの言葉が頭の中で反芻し、去年亡くなった坂田のことを思い出した。
僕が今グラウンドに立てているのは、間違いなく坂田、いや君のおかげだ。
僕が野球部に入った一年生の春、最初に声をかけてくれたのは君だった。君は中学生の時から有名で、鳴物入りでこの野球部に入部してきた。一年生の時から背番号一桁をもらって、センターという僕と同じポジションで頭角を表していた君。走攻守、全てが揃った君に、僕は憧れていた。
君は僕に、外野フライの取り方を手取り足取り教えてくれた。
ボールの追い方、走り出すタイミング、目の切り方。
学校でも話しかけてきてくれて、君は僕だけに持病があることを打ち明けてくれたね。
そんな最高のチームメイトであり、友達であり、良きライバル。
でも、ごめん。僕は少しだけ君を恨んでいた。
なぜなら、君がいることで僕は試合に出られなかったから。
だから、二年生になって君が入院したということを聞いた時も心配しつつ、内心、自分が試合に出れることを少しだけ喜んでしまった。
ほんと最低だよな、ごめん。
「センター、ボール来てるぞぉ」
という金村の声が聞こえた。我に帰り、ふと空を見上げると、ボールが僕の方に迫ってくるのがわかった。僕はバックスクリ―ンに身体を向けて、慌ててボールを追う。
君から教わったボールの追い方で、走り出すタイミングで、目の切り方で。
追っている時、僕の身体と、あの時追いかけた君の背中が重なったような気がした。
フェンスのギリギリに飛んだボールが飛ぶ。もう少しで届く。
懸命に追っている最中、僕は背中に何か温かいものがあることを感じた。
それはさっき金村が叩いたものではない。
その瞬間、僕は確信した。
君が僕と一緒に、センターに飛んだボールを追ってくれているんだと確信した。
そして、口からこの言葉が溢れた。
「あ、僕は君に好(取り憑)かれてしまったんだな」
ボールがグラブに収まる。遠くからチームメイトの叫び声やスタンドの歓声が聞こえてくる。
チームメイトがマウンドで作っている円陣に遅れて入ろうとした時、ふと後ろを振り返った。帽子を取り、深々と頭を下げ、僕はみんなの方に走った。
今日優勝できたのは、ピッチャーが抑えたからでもバッターが打てたからでもない。
僕の後ろに、四人目の外野手が守ってくれたからだ。
金村はそう言いながら、僕の背中をポンっと叩き、意気揚々とライトの守備へと向かっていった。叩かれた僕は帽子をギュッと深く被り、後を追うようにセンターのポジションへと向かった。
ポジションへと向かっている最中、僕は一度球場全体を見渡した。
両チームのピリピリとした空気とスタンドの熱気がこもる甲子園球場。
猛暑だと言われた今年の夏も今日で最後、泣いても笑っても今日で最後だ。
九回裏、相手の攻撃。スコアは三対二。この回を守り切れば、僕らの優勝。
人生の大一番で、僕はさっきの言葉が頭の中で反芻し、去年亡くなった坂田のことを思い出した。
僕が今グラウンドに立てているのは、間違いなく坂田、いや君のおかげだ。
僕が野球部に入った一年生の春、最初に声をかけてくれたのは君だった。君は中学生の時から有名で、鳴物入りでこの野球部に入部してきた。一年生の時から背番号一桁をもらって、センターという僕と同じポジションで頭角を表していた君。走攻守、全てが揃った君に、僕は憧れていた。
君は僕に、外野フライの取り方を手取り足取り教えてくれた。
ボールの追い方、走り出すタイミング、目の切り方。
学校でも話しかけてきてくれて、君は僕だけに持病があることを打ち明けてくれたね。
そんな最高のチームメイトであり、友達であり、良きライバル。
でも、ごめん。僕は少しだけ君を恨んでいた。
なぜなら、君がいることで僕は試合に出られなかったから。
だから、二年生になって君が入院したということを聞いた時も心配しつつ、内心、自分が試合に出れることを少しだけ喜んでしまった。
ほんと最低だよな、ごめん。
「センター、ボール来てるぞぉ」
という金村の声が聞こえた。我に帰り、ふと空を見上げると、ボールが僕の方に迫ってくるのがわかった。僕はバックスクリ―ンに身体を向けて、慌ててボールを追う。
君から教わったボールの追い方で、走り出すタイミングで、目の切り方で。
追っている時、僕の身体と、あの時追いかけた君の背中が重なったような気がした。
フェンスのギリギリに飛んだボールが飛ぶ。もう少しで届く。
懸命に追っている最中、僕は背中に何か温かいものがあることを感じた。
それはさっき金村が叩いたものではない。
その瞬間、僕は確信した。
君が僕と一緒に、センターに飛んだボールを追ってくれているんだと確信した。
そして、口からこの言葉が溢れた。
「あ、僕は君に好(取り憑)かれてしまったんだな」
ボールがグラブに収まる。遠くからチームメイトの叫び声やスタンドの歓声が聞こえてくる。
チームメイトがマウンドで作っている円陣に遅れて入ろうとした時、ふと後ろを振り返った。帽子を取り、深々と頭を下げ、僕はみんなの方に走った。
今日優勝できたのは、ピッチャーが抑えたからでもバッターが打てたからでもない。
僕の後ろに、四人目の外野手が守ってくれたからだ。