私はある高架駅のホームで電車を待っていた。
氷河にずっと深くまで潜っていったかのような空が降りてきて、私の顔を刺し、さらに私のコートの隙間から中へ入り込もうとしていた。
そんな半ば死んだ空が嫌になって、反対の西の空を見れば、こちらはまだやさしくやわらかい暖炉の中であった。
私はそこに顔をつけて、深呼吸をした。
しかしそこもまた、ひどくかなしく冷たくなってしまった空にじわじわと染まりつつあった。
あぁ、ここもまた、きみもまた、
そんな虚しさを感じた時、
私はある光景を、はっきりと見たのである。
まもなく死へと向かう暖炉の底の、暗く沈んだビルとビルの間で、
空が燃えていた。
たしかにはっきりと燃えている。
黄金色に焚かれた陽光が、目を見張るような生命の輝きに満ち、穏やかな紅紫にわずかに怒りをとかしたような色をして、ゆらゆらと燃えているのだ。
私は息をのんで、それをじっと見つめた。
思えば私はそんなふうな、無慈悲にもゆっくりと降りてくる夜の底にわずかに残った昼の生命が、死の間際に最後の力を振り絞って燃えている空が好きなのだった。
あの瞬間、太陽が眠たげな雲や空虚な青空の簾を破って、迫る夜をぎらぎらと睨みつけながら静かに燃える瞬間は、この世で最もうつくしい光景だと思う。
あるいはその時だけ、ちゃんと空は生きているのだと確かめられるからかもしれない。
しかしいつも、その抵抗はすぐに潰えて、みるみる空は夜に呑まれていってしまう。
気づけばビルの隙間の瀕死の炎は煙に包まれながら崩れ去ろうとしていた。
私は目を背けた。
どうしても見たくなかった。
何よりもうつくしく、滾るように熱を放って最期に燃えた昼が尽き果てる瞬間を。
すっかり夜のはじまりに埋もれてしまったホームを眺めていると、遠くから小刻みに鋭い音が聞こえてきた。
顔を上げる。電車の白い前照灯が凍った空を切り裂いてこちらへ向かってきていた。
ふぅっ、と思わず息を吐いた。
息はすぐに白くなって、沈みゆく空気へと消えた。
氷河にずっと深くまで潜っていったかのような空が降りてきて、私の顔を刺し、さらに私のコートの隙間から中へ入り込もうとしていた。
そんな半ば死んだ空が嫌になって、反対の西の空を見れば、こちらはまだやさしくやわらかい暖炉の中であった。
私はそこに顔をつけて、深呼吸をした。
しかしそこもまた、ひどくかなしく冷たくなってしまった空にじわじわと染まりつつあった。
あぁ、ここもまた、きみもまた、
そんな虚しさを感じた時、
私はある光景を、はっきりと見たのである。
まもなく死へと向かう暖炉の底の、暗く沈んだビルとビルの間で、
空が燃えていた。
たしかにはっきりと燃えている。
黄金色に焚かれた陽光が、目を見張るような生命の輝きに満ち、穏やかな紅紫にわずかに怒りをとかしたような色をして、ゆらゆらと燃えているのだ。
私は息をのんで、それをじっと見つめた。
思えば私はそんなふうな、無慈悲にもゆっくりと降りてくる夜の底にわずかに残った昼の生命が、死の間際に最後の力を振り絞って燃えている空が好きなのだった。
あの瞬間、太陽が眠たげな雲や空虚な青空の簾を破って、迫る夜をぎらぎらと睨みつけながら静かに燃える瞬間は、この世で最もうつくしい光景だと思う。
あるいはその時だけ、ちゃんと空は生きているのだと確かめられるからかもしれない。
しかしいつも、その抵抗はすぐに潰えて、みるみる空は夜に呑まれていってしまう。
気づけばビルの隙間の瀕死の炎は煙に包まれながら崩れ去ろうとしていた。
私は目を背けた。
どうしても見たくなかった。
何よりもうつくしく、滾るように熱を放って最期に燃えた昼が尽き果てる瞬間を。
すっかり夜のはじまりに埋もれてしまったホームを眺めていると、遠くから小刻みに鋭い音が聞こえてきた。
顔を上げる。電車の白い前照灯が凍った空を切り裂いてこちらへ向かってきていた。
ふぅっ、と思わず息を吐いた。
息はすぐに白くなって、沈みゆく空気へと消えた。